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モスクワ市
地下鉄(3)
―設備
soviet

ソ連,社会主義国,...というと,「非能率」とか,「遅れている」とかいうキーワードが思い浮かびますが,実は,モスクワの地下鉄は,ある意味で世界一優秀でした.それは,「運転間隔の短さ」です.最短時の運転間隔は,1分10秒といわれていました.日本一運転間隔が短いといわれる,東京メトロ丸の内線でも,これにはおよびません.

 

しかも,私が夕方のラッシュ時にホームで見ていると,実際には間隔はもっと短く,1分程度でした.なぜ,こんなふうに不確かなことしか言えないかというと,時刻表がどこにもないからです.運転されている時間帯についても,朝5時から深夜1時まで走っているとは聞いていましたが,確かなことはわかりませんでした.私自身は,深夜0時半ころ乗ったことがありますが,その時刻でもそれほど待たずに乗れました.もっとも,これは治安のよかったこのころだからできたことで,今はこんな時刻には乗ると危険なのかもしれません.

また,確かに,一番運転間隔が短いのは,一番混んでいる,重要な場所を通る路線なのですが,一番運転間隔が長い(といっても3〜5分間隔なのですが)のは,一番新しい路線でした.この線は私も通勤に利用していましたが,結構混んでいる線でした.運転間隔が長いのは,もしかして車両の補充が追いつかないから?と思っていました.実際,電車はかなり古そうなものがたくさんありました.

 

さて,時刻表のかわりにあるのが,この電光掲示板です.これは,ホームの端の,電車の先頭部が来るところに設置されています.左の電光掲示板は,現在の時刻を表示し,右の掲示板は「前の電車が出発してからの経過時間」を表示しています.この経過時間で,次の電車が来るまでの時間の,おおよその目安がわかるわけです.ただ,決して「次の電車が来るまでの残り時間」ではありませんから,なかなか電車が来なくて,目安が外れるときもあります.なお,モスクワの地下鉄は右側通行です.

地上にある駅では,このような,針式の時計とアナログ式電光掲示板を使っているところもありました.ところで,この2つの写真のどちらにも大きな鏡が写っていますが,これは,地下鉄がワンマン運転をしているため,運転手がホームのようすを見るために設置されているものです.車掌は乗っていませんので,車内放送はテープでされています.このテープの声がいろいろあって,オペラのバリトン歌手のような朗々と歌うようなアナウンス,早口の女性のアナウンス,時には明らかに回転数が違っているものや,回転が不安定で声が波打っているものも有りました.当時,録音機を持っていっていなかったのが悔やまれます.

metro3-2

車内アナウンスの台詞は決まっていて,駅に到着する直前の"Станция ○○. Переход на △△ линию."(○○駅です.△△線は乗り換えです.」というものと,出発するときの"Осторожна, двери закрываются. Средющая станция &mdash ××."(ご注意ください,ドアが閉まります.次の駅は××)というものの2種類しかありません.この「ご注意ください,ドアが閉まります(アスタロージュナ,ドゥヴェーリ・ザクリヴァーユッツァ)」という台詞は,モスクワ市民にはよく知られた決まり文句のようで,新聞の風刺漫画で,たくさんの民衆に詰め寄られているゴルバチョフ氏が,「アスタロージュナ,ドゥヴェーリ・ザクリヴァーユッツァ」と言いながら,ドアを閉めて人々を締め出しているものがありました.

 

車内の様子です.このような暖色の照明で,車内,駅とも,日本の地下鉄よりも暗いと思います.また,たまに,車内の照明が消えたまま走っている車両がありました.日本の電車と違って,車両と車両の間には通路はないので,照明が消えた車両に乗ってしまったら,そのまま乗っているしかありません.しかし,当時は結構平気で乗っていました.車内の込み具合は,東京や大阪のような「すし詰め」ということはなく,混んでいるときでこの写真よりもう少し立ち客が多い,ぐらいでした.座って眠っている人も,案外いました.